「物忘れひどい。よくおなかすいてる。」とプロフィールに書くような彼。ゲームや音楽の話を楽しそうにする彼。周りに気遣い、温かな言葉を掛ける彼。第一印象は、なるほど確かに柔和である。しかし騙されてはいけない。そんな彼の別の一面に、私はいい意味でいつも裏切られてきた。

彼の口癖は四つある。「完全に」「突き詰める」「含める」「素敵」がそれだ。これらの言葉は、隠そうとしても滲み出してしまう、彼の情熱の強さを物語っている。

その先にある喜びや笑顔に出会うため、「動き」と「演出」にすべてを注ぎ込む。そこには、時を超え、人の垣根を超えて通じ合おうとする可能性の模索があった。身を削るほどに挑戦し続ける、彼の原動力を探る。

kowareru の真意

今回のタイトルは「伝わる」ということで、まずそのあたりから。

そうね……。以前 mokuva カバーに出してた kowareru っていう作品、あれは元々はイベント用に作ったものなんだけど、あれの一番の目的って「この作品のスクリーンショットが世の中にどう貼られていくのか」っていうのを見ることだったの。

みんな、どのタイミングでスクリーンショットを撮って世の中に展開するんだろうか、っていうのを可視化したかった。いろんなタイミングでスクリーンショットを撮ってる人がいて、人によって色とかタイミングが違ってて、その違いでけっこう盛り上がったね。当時画像検索とかはあんまりなかったけど、ブログで結構話題になったから、それぞれの絵の違いがすごく面白かった。

なるほど、そういう視点なんだ。じゃあ、単純に押した時に気持ちいいとか、壊れる表現が、っていうのは半分なんだね。人によって違う壊れ方の集約がもう半分で。

それをもってして「kowareru」なのかなと。これ自体は相当前に作ってたものだから、壊れる表現自体は結構副産物かなと思ってて。その当時はウェブコミュニケーションがすごく面白くなってきてて、スクリーンショットを貼る文化とかも面白くて、その先にあるものに興味を持った。みんな思い思いの状態のスクリーンショットを撮ってて、ここが一番響いたってことだよなとか。そこが一番興味があったとこ。

相互干渉の「考察」

「連続がある中で、どこが切り取られるか」っていうのを見るためには、連続が無ければできないから、映像とかアニメーションって感じになっていってるのかな。

そうだね。そこでゾートロープ(回転のぞき絵)っていう表現に注目してて。ゾートロープってのは、まあただのコマアニメなんだけど、あの考え方ってすごい好きで。やっぱアニメーションの基礎になってるし。一コマずつズレてる感じみたいな気持ちよさがある。

今の起きてる瞬間が過去になっていくのが見えるっていう。

不思議な違和感というか。自分が見てるものじゃないものが一瞬どこかに映ってるとか、その違和感を楽しむものなのかなーって。でも、基本的にはゾートロープって1対1の関係じゃない?見ている人の対象と、見られてるものが存在してて成立してる。

じゃあその一コマずつズレている自分の過去のコマに対して、別の人が手を加えたら?見ているものに対して誰かが干渉して、それを変わっていくとしたら……どうなるんだろうな、っていうのが昔から気になってた。

自分の経験に人が割り込んでくるみたいな。

そうそう。そうなると違う世界を覗き見るような、「自分の過去に誰かが触れている」みたいな印象になるのかなって。すごく時間の概念が好きで、そこに触れられるようなものを作りたいなと思ってて。正直、上に乗るものはなんでもいい。だから、kowareru でもいいし、今まで見せてた映像の表現でもいいし。複数の人が介在すると、なんか全然違う動きがうまれるんじゃないかなと思ってて。

連続してるものは何でもよくて、そこに人が差し込まれていって動いてく。人同士もそれを軸にしてものを見ているような、そういうイメージなんだね。

自分はそれを見ていたい。だから「考察」っていう表現が近いと思う。自分個人のモチベーションとしては、これをやることで何か新しいものが生まれたらすげえ楽しい、っていう。その人の体験をコントロールしたみたいな感じになるかなと。

体験のコントロール。たぶんそれって、一対一じゃなくて「連鎖を生む」みたいなことなんだよね。人がそれをやってるってことが、他の人も見えて、やるみたいな。

だからもう、想像できなくって、それが楽しい。時系列とか過去とかループものとか、すごい好きなんですよ。昔から。ゾートロープは過去を見てるようなな印象になるじゃない?リアルタイムで見ているタイムラインと、それが後ろに流れて行く部分と。

基本的に後ろにしか流れないもんね。

そうそう、そこに発生しているものは自分のみた過去として存在していて、それでいて時間のズレみたいなところを一緒に共有しているみたいな、なんかそういう不思議な気持ち良さがゾートロープには存在していると思ってて。なんかそういうものを作れたらすごい素敵。過去が見えて、一緒にいるみたいなのを作れるのがゾートロープ。そこに「リアルタイムのインタラクティブ」が加わることで、全然別の作品になる。

結構、音楽にも近いかも。ジャズの即興みたいな。前の演奏者に乗って、他の演奏者が繰り出してくる。

最初の頃、音楽の楽譜つくりたいって言ったじゃん。なかなかああいう時系列で並んでるものが残り続けてるのって少なくって。俺、楽譜はゾートロープに近いものがあると思ってて。演奏したあとのものが後ろに残ってるっていう不思議な違和感を感じてた。ああいうものを作ってみたいなと。

楽譜は文章と違って、出来事のタイミングとか時間が書いてある。

そうそう。タイムラインと呼ばれるものがそこには存在してるから。だから楽譜ってすげえなってずっと思ってて。で、自分にある程度技術がついてきたタイミングで、一回定義してみたいなって。

自分のためのものづくり

今回は結構、産みの苦しみがあったとのことだけど。

あんまりね、自分のためにものづくりしないんですよ。コンセプトとかそういうものがないと基本的に作りにくくて。だから、仕事はやりやすいんだけど。何かに向けて、じゃあオリジナルな作品つくりましょうみたいな話になると、けっこう「うーん」って悩んじゃうタイプだから。

だから今回の展覧会も、一番最初の打ち合わせのとき、コンセプトを作るか作らないかって議論をして、俺は欲しいっていったのね。何のために個展を開いて、何に向かって作るのか。何かをモチーフにしましょう、キーワードにしましょう、みたいなものを欲しかったの。でも結局、ユーキくんが「要らない」っていって。で、それぞれ自由に作るってなった瞬間に「あれ、何作ろう?」って。

自分のために作るのは苦手ってのは俺もそうかな。プロジェクトとしてやるってのが、結構染み付いてるから。

何のために作るのかってのがけっこうブレちゃうんだよね。お客さんのためだったら、そのために作るんだけど。

クライアントがいないからね。だから、自分が何をしたいかってのと、自分それをどう実現するのかってのが、分け難いよね。

今回新しいルールで作ってるからそのへんを学ぶのに時間かかるところはあるけど、たぶん、作るのにはそんなに時間はかからなくて。だいたいわかるじゃん、こう組んだらいいとか。ある程度必須でかかる時間はあるけど、そのへんの設計っていうのはある程度やり続けてたら、まあ多少は想像つくなって。

だから今回は手を動かすより、演出の定義をずっと考えてて。どう人が介在してどう触っていったら自分の思うようなものになるのか。基本的なところはすごい早めにたどり着いてるんだけど、作ったものはこう使われるだろう、こういう形で成立するだろうなってところに、自分で腑に落ちるところまでにもっていく、それにすごい時間が掛かってた。で、これなら行けるかもってやっと確証が出てきてるところ。

自分は仕事のやり方もそうだけど、結構臨機応変に変えるんですよ。プログラムとか組みながら、こっちのほうが面白そうだなとか、こっちのほうが絶対いいなとか。自分がこう設置するんだっていうときに、今考えてたアプローチより別のほうが面白そうだな、とか。

そういう風にいまいろいろ変遷してるんだけど、でも根幹の部分は複数のデバイス使って連動するというところは基本変わってなくて、今はそのウワモノ作ってるって感じかな。

インタラクティブ≠ウェブ

ちなみに、今回の展示でインタラクティブをやろうと思ったのは、ウェブでそれをやってたから?

あんまりウェブは関係ないかもね。むしろ、これやりたいなって思ってたときに、ウェブだと相手も見えないし、基本PCと一対一なわけだし。そうじゃない機会が欲しかった。イベントモノだと人が集まるし、当然複数で触るってことが存在するわけで、それを使わない手はないよなと。

それに、最近はウェブでどうこうってのをあまり考えなくなったかな。昔はウェブにこだわってたところはあったけど、最近は別にウェブじゃなくても。昔は「ウェブ!」みたいな。ウェブと一緒に生きて行きますみたいな、そんなところがあったけど、いまは懐に仕舞い込んでる刀みたいな。「ウェブ……?」みたいな。

それ文字で伝わらないよ!(笑)

いつでも抜ける刀だけど、普段は仕舞ってるって感じ。「ウェブ使ったらね……?」って。

メインの武器じゃなくて。

そうそう。脇差みたいな。

今回の展示で言うと、今回は完全にモノを展示するイベントだから、現場主導だよなって。デジタルをすごく視野に入れてるけど、ウェブで何か表現しようみたいな発想はほぼない。

ウェブで絡めたものが企画できればいいんだけどね。せっかくリアルタイムの人たちを見れる機会だから、それを最前に持ってこようかなと。顔が見えない人のコミュニケーションってあんまり感動しないなって思ってきてて。

たとえば、現場の人たちにその場でURLおしえて触ってもらうとかだったら違うのかもしれないけど、全く外界のウェブ側の人が好きに触ってくださいっていうのは、じゃあ今回のイベントじゃなくてもいいじゃん、っていう。

なるほど。

だけど自分はウェブ屋さんだし、いろんなことを記録はしておきたい。あった時系列のことをデータとしてまとめておいて、サーバ側に保存しておくぐらいは考えてるかな。でも、それをあとでどう使うかとか、最終的にパブリックな場で公開するかとかは、別にいまは決めてない。あとで何かに使えるかなって眺めるぐらいのことはしようかなって思ってるよ。

音響・Flash・Web

さて、ここからはルーツを巡る旅ということで。高校のときはサッカー青年だったんだよね。

サッカーやってた当時は、OBの人たちと岡山でサッカーやって、地元の友達と過ごして、そのまま死んでいくのかなって思ってた。というか、むしろそれが良かったなと。地元の人とか、俺が東京に行ったって聞くとびっくりするから。母親も、俺だけはそういうところに行かないと思ってたみたい。そのぐらい岡山が好きだったし、今も好き。

でも、体調の都合でサッカーができなくなった瞬間に、自分の中で価値観が壊れちゃって……何にもできなくなったなーって。そんな時に音響と出会った。知り合いがやってて楽しそうだったから、なんとなく始めたんだけど、先輩とずっとやってたってのもあって、機材もすごく好きになって。みんながギター買ったりシンセかったり音源買ったりしてるとき、一人だけマルチチャンネルのミキサーを買って、シールドをつないで「このミキサー、低音切ったら結構すごいぞ」とかね(笑)。

もともと裏方さんをかっこいいなと思ってるところが昔からあったんだよね。縁の下の力持ちじゃないけど、この人たちがいないと、あの人たちって輝けないんだなーって。自分が前に立つほうじゃなくて、誰かの右腕になりたいと思ってるタイプだった。だから、この道に進みたい!ってホント思ってたね。

そんなときに、Flash と出会った。

あるとき「VJ の映像素材つくってくれない?」って言われて、そんなんやったことねーぞって思って必死で VJ について調べたら、Motion Dive か Flash かを使うって書いてあって。で、調べたら、Motion Dive の体験版は試用期間が7日で、Flash4はなんと30日!「よっしゃ!長い方で!」って。

試用期間でさこっちの人生が決まったんだね(笑)。

でもまあ、使い始めた当時はさっぱりわかんなかったんだけどね。

そういえば、パソコンって家にあった?

あった。Windows95かな。そのあと2000。でもネットに繋がってなかったし、ホームページの見方も知らなかった。IEのリンク切れの画面みながら「これがインターネットなのかな」って言ってたぐらいの知識。ホームページって不思議な形してるなーと思ってた。

その後、Flashの体験版に「マクロメディアのサイトにFlashのサンプルがあがってる」って書いてあったから、クリックして見たらやっぱり同じ画面がでて。「同じ表現?……いや、見えてないんだ!」って気づいたり。そのレベル。

ウェブより先に、動画ツールとしてFlashを使ってたんだ。ウェブを使い始めたのは?

19歳ぐらいかな。

じゃあ、東京に来て、早稲田の研究室入ってからなんだ。

それまでは「ホームページって何?」って世界。Flashだけだった。その後、マギ(※聞き手のこと)と仕事するきっかけがあって、「ウェブ」っていうのがあるんだって知ったね。俺はそのときビジュアルとかモーションの話をしてたけど、マギはアクセシビリティとかそういう話をしてて。

なかなか価値が見えないって質問したんだと思う、CSSとかについてだったかな?作っているものがすごくよく出来てるとか、すごいものなんだってことが、なかなか伝わりにくいよねって言った時に、「突き詰めたら……○○も素敵になるんだよね」って言ってて、そういう考え方もあるんだ、って思ったんだよね。いい話だなって。

その○○、思い出せない?(笑)俺も思い出せないけど……しかし、そんなことになってるとは思わなかった。

あの帰り道は、誰かに語りたいって思った気がする。自分の親には言ったね。きょとんとしてたけど(笑)。それで、ウェブって素敵じゃね?って思った。衝撃だったからね。同い年で同じ分野で、これだけ差がついてるのかーって。俺もその辺勉強しないとなって思ったんだよ。

ゲームが師匠

ところで、さこっちと言えばゲームだけど。やっぱり影響ある?

小さい頃のときからの考え方も含めて、完全に影響ある。一回ゲーム会社受けたことがあるぐらいに。なぜか別の部署に回されそうだったからやめたけどね(笑)。そのぐらい好き。

とにかくゲームから学んでることは多いね。もの作るとき、だいぶ感化されてたと思うよ。企画考える時も「よく考えるとこれってあのゲームじゃない?」って思う時があったり。動きをつけるときもゲームから連想してることが多い。

あきらかに特定のゲームから影響うけてるのもある。FF からとかね。たとえば、演出が決まらなくて、次の日に演出の確認出しが必要で。で、すべてをなげうってFF12をやってたら……

うんうんって聞いてたけど、その状況でFFやってるのおかしいよ!(笑)。

いや、そこで「俺の求めてたのはこれだよ!」ってのがあって(笑)。行動指示のライン。ひゅーんって伸びるやつをみたときに「これやー」って思って、集中して作りこんだ。で、ユーキくんに「できた?」って聞かれて「これできたよ」って出して。でも「今やるべきはそこじゃねえよ」ってなったという(笑)。

でも、俺のなかでこれが思いついた時に、俺の中では完成したって感じになったし。これ以外でも、文字の出し方とか、ものの動かし方とか、根幹には完全にゲームがあるね。

動きとゲームのつながりが明確にある。

動きの考え方って、ある程度のレベルになってくると経験値が重要になってくるなと。最初のころはただ作ればいいかもしれないけど、やっぱり良いもの見てないやつは良いもの作れない。だから自分は「あのゲームでこういう動きしてたから、それを再現してみよう」とか、割とやってるね。

あと、クリエイター同士の会話の言語として「あのゲームのアレっぽく」みたいこともあるしね。このへんもゲームやってて良かったなと思う瞬間。

ゲームを純粋に楽しんでたころの気持ちが、動きとして蘇るんだね。

いまは完全に制作者視点が入っちゃうけどね。ふつうに楽しむってことがなかなかなくて「あのころに戻りたい」みたいな。でもいまでも買い続けてる。

本とか映画よりも、自分の芯にそれがすごく届いている気がする。自己投影しやすい存在。そしてゲームはクリエイティビティが高いよね。ウェブだと制限がまだまだ多いけど、ゲームだとそれが少ない。

動きの師匠はゲームってことかな?

そうだね、完全に。

突き詰めるモノ

動きっていうものが自分の根幹だと思ったきっかけは?

仕事でやってると、スパイラルが起きるんだよね。Flashって、表現を突き詰めようとするとどうしてもプログラムが必要になる。だからやりたいことをやるためにプログラムやって。そうしたらデザインもやらなきゃいけないし。出来上がったら、公開しようと思ってウェブを勉強して。公開できたらまた次の仕事で必要だからプログラムを……

bA入った時もそうだったけど、みんなプログラムも書けて、動きの演出も考えられる。そういう風に考えていったときに、思ったことがあって。

プログラムできる人っていっぱいいるなあと。やらなきゃいけないからやってるけど、その理由がなかったら別にやらないなと。すげえ楽しいかっていうとそうでもない。かといってデザインをやりたいかというと、デザインもそんなに好きじゃないなと。自分は、デザイン嫌いじゃないけど、そんなに根詰めてやりたくない。やっぱりできる人もたくさんいるし。

なるほど。

じゃあ、自分は何をやりたいんだろうなと思ったの。で、やっぱり映像とか動きはすごく好きだった。そこで、自分なりの武器が欲しいなと思った時に「動きのクオリティをとことん上げる」っていう、一個の答えを出した。

自分はとことん動きのクオリティを突き詰める、その瞬間がやっぱり一番楽しいし、それで隙のないものを作ればいいんじゃない?って。同じ動きのところを、何回も何回も見て調整して。違和感は完全に取り除いていこうって。そうやっていったら、動きに関しては完璧主義みたいな感じになった。

それについて、フリーになったときに「左居さんは動きを考えてるっていうよりは演出で考えてますね」っていう話をされて、ああそうかもしれないですねって。自分は演出志向なんだなと、そのとき思った。

結果的に、やっていることを伝えやすいラベルが「演出」で、根本は「動き」だと。

そうだね、やっぱり動きをつけるのが一番わかりやすかった。単純に好きだったなと。

ただ、今はその意味が拡張されてきてるよね。

うん、当時は動きってだけだったけど、いまは企画を立てたり、盛り立てるために全然ちがうメディアを持ってきたりとか、そういうのを含めていまは楽しいなと思うし、それも込みで「演出」になってきてると思う。だから、やっぱり自分のカテゴリとしては「演出」なのかなと。

動きを作るプロセス

サイトを作る時って、どこから入っていく?

まず動きを作る。最初に動きのモックアップを作り、基調となる動きをひとつ決めてから考えるようにしてて、それで統一を測るかな。全体の演出を作る時にテンポを大事にしてるんだけど、自分の中でリズムを取って、そのリズムがサイトにあるかなあって。人が見てる時もリズムがあるから、そのリズムにサイトのリズムが乗ってるかなと、そういうのを考えながらモーションをなるべく統一して行く。

動きを作るモチーフは?

デザインがあれば、そこからインスパイアされる。完全にラフデザイン一枚しかないときもあったけど、でも、それ以外は要らない。その形から「これが一番綺麗に見えるんじゃない?」と思ったところを繰り返し作りこんでいく。作りながら見えて行く、やればやるほど見えてくる感じかな。

あとはコンテンツのコンセプトから「こういうのつけようかな」と浮かんできたり。こっちから「これやってみたいからやってみよう」みたいなのは無いかな。だいたいそういうのは合わない。ある程度自然に導かれたもの、必然性の流れの中で見えてくるものが、バランスいいなと。

パターンを作って検討したりする?

最近はそういうのもあんまりない。これで行くってきめて、それを詰める感じかな。基本的には自分が作るものが正義だと思って作るね。作った上でこうしたいと思ったら、チームメンバーにモノを見せて、そっちに流すように話していく。

何やるか決まってないときなんかは、どうする?

決まってなかったら決めにいくね。ザックリで「あとよろしく」だと、それでは進まないですって言って。モックアップを作って共通の認識を作りたいから、まずそれが起こせるところまでは決めていく。そしてそのモックアップ作りに心底、命を掛ける。できたモックアップからなるべくブレないようなレベルにしていく。「それでそのまま作ってください」ってなるように。

ここでいう「動き」って、視覚的なもの以外の、たとえば「人の動き」とかも入ってるのかな。

目に見えるものが一番だね。いまは人の動きも気になるけど、昔はそうでもなくて、もう単純に純粋にカッコよければいいかなと。だから自分の過去の作品をみると、昔の方が作ってたものがソリッドで、かっこいいじゃんと思うものもやっぱ多くて。逆にすげえな、ここまでやったらって。今はなんか逆にこなれてしまって。

一個のことだけをやり続けるのが難しくなってきた、ってのはあるよね。

昔は「やり続けることだけが俺の使命」みたいな「ここに突き進むぜ俺は」みたいな感じだったね。

CASO DESIGN

昔のでいうと、ユーキくんとやった CASO DESIGN が一番楽しかった、とのことだけど。

これはすごく楽しかった。実装してても、打ち合わせしてても。デザインもスタイリッシュだし。動きひとつつけるのも楽しかった。全てに対して、ここまで力を入れて作るのか、っていうぐらい作り込んだね。すごく時間がかかったわけでもないんだけど。デザインも、インタラクティブのやり方も含めて、完璧だった。全体として一番クオリティが高かったんじゃないかな。

これはもう、これ以上の作品にはならない。いままで作ってきたものって、いま手を入れ直せばある程度ブラッシュアップできると思うけど、これに関しては何しても変わらないと思う。すべてが必然的にこうなってたって感じ。

これは一緒にやった初めての仕事?

そうだね、初めて。この案件をやったことで一気にユーキくんのファンになった。ユーキくんのデザインも超かっこよかったし、すっげーなって。今も変わらないけど、この案件をやったときの尊敬ぶりに関してはダントツだね。

ウェブサイトに関しては、たぶんこれ以上の作品はつくれない。後にも先にもこれ以上の仕事は出ないだろうね。他の人には「他のサイトの方が」って言われそうな気もするけど、このサイトがすごい。説明しづらいんだけどね、一番いい。動きの一つ一つが完成されてる。これが伝わるのはユーキくんしかいないような気がするな。

フリーランス

フリーになった理由とか、フリーってどんな感じかとか。

ユーキくんと本腰入れて一緒に仕事してみたいってのがきっかけかな。あと、もっと自分が求められている場所があるんじゃないか、って思ったところもある。そしてユーキくんと仕事するうちに、いろんな人を紹介してもらって、新しい仕事をしていったり。

フリーになって仕事しやすさって変わった?

想定外のタスクが多いってのが一番のネックかな。打ち合わせも多いし、作業時間の確保が難しくなってるかも。ネットサーフィンは止まらないし(笑)。そういう意味では誰かとやってるほうがメリハリつくんだろうなって。

家族がいてフリーランスってのは本当にすごいよね。勇気だと思う。

結婚する時に、フリーになるって決まってたしね。死んだなと思った。いま考えても、フリーランスはあんまり自分には向いてなさそうだね。心臓にも悪いし。固定給のほうが安心するタイプだから。でも、いろいろ新しい仕事や経験ができたし、面白い人たちに会えたし、フリーやっててよかったところもあるね。

フリーだと単独でアサインできる、名指しで仕事を頼めるってのはあるよね。

確かに。そういう意味では、機会をいっぱいもらえてるんだろうね。なるべくこの環境は生かしつつ次につなげたいなとは思う。

自分の中での納得

どこまで行くと自分なりに目標に達したと感じる?

なかなかそこに至りにくくて。もちろんどんなものでも納得して世の中に出してはいるんだけど、いま世の中に出てて自分的に「よっしゃ」ってとこまで行ってるものってホントに少ない。

ハードルが高いんじゃない?

明確にあるっちゃあるんだけどね。そのときそのときで、あれはよかった、これはよかったってのがある感じ。

それ、ひとつずつ聞かせて。といいつつまず自分から(笑)NEC LUI、これは見ただけで「さこっちだ!」って分かったよ。

これはユーキくんが誘ってくれたんだよ。手伝ってやってよみたいな感じで。当時の俺の触れ込みは、線の動きが特徴的っていう話だったらしく「線の挙動を先につくってください」ってクライアントから言われて。

「あいつは線だ」って。

そうそう。ホントかなって(笑)。でも線の動きを作るのがホント好きだったし、そんとき作ったやつをいたく気に入ってくれて。もともとはバナー作って終わりだったんだけど、サイトも作ってくれってなった。

この線の動き、NECの前に見たことある気がする。CASO のときはこれとは違ったんだっけ。

あのときは、まだこの線のクオリティには達してなかったな。

多くのユーザーを相手にするっていう意味では、mixi GP もそうだよね。

そういう意味では楽しかった。mixi も絶頂期だったから凄くアクセスもあって。これだけ多くのユーザーにこれをぶつけるんだっていうところで怖かったのもあったし、いろいろ悩みながらも対応したけど、すごく上手に実装できて、ぜんぜんバグもなくて。奇跡的に、こんなにうまく作れるんだってのができた。おかげで一緒に制作した人たちとの信頼関係が強くなったね。

このへん見てるとさ、演出するときって、コンセプトや商品そのものが持つ力ってのもすごく影響するんだなって、改めて思うよね。

あとは、そこに対してどれだけ自分の想いを掛けて作れたかっていうのもあるね。UNIQLO 88COLORS、これはティザーサイトで、ユーキくんと一緒にやったんだけど、ユーキくんから「大枠のレイアウトをこうしたいんだよね」って言われたあとは自由にやらせてもらって、音楽に合わせて動くような形でつくって。これは「自分がいま作ってみたい」と思うようなそんな作品だったんだけど、クライアントにもすごく評判が良かった。

あと、Tabio は外せないよね。

実は Tabio は理由があって、完成後1ヶ月間、公開までの期間があったの。完成してから1ヶ月間ブラッシュアップできるっていう、夢のような期間、ボーナスステージ(笑)があって。もう心ゆくまで調整できて、これ納得いかないって言ったらしばかれるなって。バグフィックスも全部できたし。これは納得のクオリティだったね。

Tabioは、もともと「滑る」ってところはあったの?

あった。Projector の田中さんが「足で滑るっていう体験はみんなものだから、そこはきちんと押さえてやっていこう」って話をしてて。で、モックアップを作りたいって俺が言って、滑ってる素材をくださいとか言って、スタッフにその場で滑りに行ってもらって(笑)。最初のモックアップでは引っ張るって感じでやってたね、紐で引っ張ってたりとか。フリック操作のパターンとかも試して。

Light is Beautiful も、デザインを受けて動きを考えて「これじゃない、これっすよ!」みたいな話をしたなあ。写真が光になって、粒子になって、届く、っていうコンセプトビジュアルがあったの。そのコンセプトがより伝わるように、動きをつけながら考えて、粒子が上にあがるっていうモーションを考えていった。コンテンツの仕組みを含めて、モックアップで作っていくって流れが正解なのかなあと感じたね。

聞いてて思ったけど、対象が持ってる根本的なところと、演出とのマッチングがパチっといったとき、本人としての納得感につながってくるんだろうね。

うん、そうだと思うよ。

関わり方の拡張

近年はディレクションをやることも多くなってきてると思うけど。

割と昔から制作とディレクションを兼ねてるのは結構あるんだけど、NHKの案件では完全にディレクションのみだったね。はじめてこれだけの規模で一切手を動かさずにやったなあと。最近はこういう案件もけっこう楽しい。

自分で作るのも、任せて作るのも、両方とも楽しいってことだね。

ディレクターとして、どういう風につくっていくか、どうしていってほしいか、ってとこも含めて、デザイナーを統括してまとめてやってた。プロジェクトマネジメントだけっていうよりは、コンセプトを考えるところから入ったほうが、自分が入る意味があるかな。

最近は海外の仕事も増えてきたよね。

UNIQLO VOICES OF NEWYORK は、NYのクリエイティブと一緒にやったね。NYに旗艦店ができるってことで、店舗用の映像を作るってところから、ウェブサイトと店舗の映像を揃えることになって、THAと一緒に作らせてもらった。

店舗のオープン合わせて流れる映像として、自分が作ったものがたくさん出てて、それは純粋にうれしかった。クライアントもすごく喜んでくれてたし、ユニクロのクリエイティブの人たちも作ったものを素直に評価してくれたし、よかったなあと思うよ。外国にあんまりいいイメージなかったけど、これをやってみて、面白いなって思うようになったね。

活躍の幅を広げて、海外の賞も何度も取ってると思うんだけど。

賞は副産物かな。最初の頃はうれしかったこともあるけどね。実況ジェネレーターのときは死ぬ思いをしてたし、そんなときに取れた賞はやっぱりうれしかった。同時に、クライアントが喜んでくれたのもすごくうれしかったな。今は、わかりやすいステータスになるし、仕事いっしょにやる人がそれで安心してくれるっていうのもあるし……そのぐらい。

ユーザーの反響

直近1年ぐらいは、アーティスト関係の仕事がすごく増えたよね。

実はアーティスト関連の仕事をやっていくなかで、俺の中でのウェブの価値観もだいぶ変わってきてる。とにかくユーザーの反応がすごい。サイトのアクセスも桁外れだし、反応自体もすごくダイレクトで、Twitterに書かれたりもするし、クレームも直接届く。なかなか企業サイトでそんなことってないから、こんな規模のアクセスの反応を見たりするのって、自分にとってカルチャーショックだったね。こういう世界が存在してるんだな、ユーザーってすげえ大事だなって。

しかも、ユーザーの行動に直接影響がある。ライブにいくとか、友達との話題にするとか。それってすごく価値があることだよね。

それを体感した案件のひとつが、ONE OK ROCK の Remake かな。ワカメくんにも途中で手伝ってもらって。これはもう最初から絵が浮かんでて、時間なかったけど完成度は高かったね。クライアントともだいぶ信頼関係も作れたし、もちろんアーティストやスタッフの助けがあってのことだけど、個人名義で賞をもらえたりして。これのおかげでいろいろ仕事の幅も広がったし、だいぶ満足度が高かったな。

素晴らしいね。今までのものより、反響が大きい案件にもっと入って行きたいっていう気持ちはあったりする?

どっちってことはないね。やりたいものをやる、フリーの特権だよね。納得するところまでやりたいってだけ。ほんと仕事好きだから。というかクライアントが好きだから。真剣に考えているクライアントと一緒に考えるのが好きなんだろうね。

ユーキくんという存在

さこっちが一緒にやってる相手っていうと、やっぱりユーキくんが多いんだよね。

そうだね、一番多いかな。ユーキくんは同世代の中でもダントツかなあと思う。この人はデザイン好きなんだなあって。自分の世界も持ってるし、ストイックに徹底してやり抜いていくし、現場慣れもしてて経験値が高いし……周りに認められてるだけはあるなと。ユーキくんと一緒にやってるだけで安心して「お願いします」って感じの案件になるし、実際、毎回デザインの評価は高かった。

自分はフリーになったタイミングからユーキくんと一緒にやることが増えたけど、ユーキくんがいなかったら自分はここまでになってない。自分のやること、作るものに対して細かく言ってくれるし、それもありがたいなと思ってて、勉強になる。俺の奥さんとも仲がいいし、俺のことをずっと面倒みてくれてて、いいお兄ちゃんみたいな感じ。

あと、カテゴリが違って良かったなーという気持ちもあるかな。同じ立ち位置でこのレベルの人がいたら凹んでたと思う。

ユーキくんと他の人の差ってなんだろう。本人は自分の色を出さないようにしてる、って書いてるけど。

ユーキくんの特徴は、ユーキくんのデザインにあるんじゃないかな。やっぱりユーキくんのデザインは、ユーキくんだなって感じるよ。そういう意味でブレないっていうか、確証を持ってやってる。書体、形、色味。ずっと前からそう。

昔の表現を今の形にうまく持ってくるというようなところがあるよね。

ちゃんとアートとしての表現になってる。今回の展示でも、ユーキくんは慎重かつ、すごい早いタイミングでかなり作り込んできて、ユーキくんの性格が出てるなあと。

ワカメくんという存在

ワカメくんとも、ここ2年ぐらいはずっとやってるよね。

ワカメくんは、自分が Flash やり始めた時にはすでに有名だったから、mokuvaで出会ったときはけっこうびっくりした。RINNEL の人だ、って。

5年前ぐらいに仕事でけっこう大変だったときヘルプしてもらって、そこからの付き合いかな。飲みにいったりするうちに仲良くなって、こっちに引っ越してきてからは家が近くなったから、朝までゲームしたり、一緒に仕事する機会も多くなった。

ワカメくんは仕事のときは自分のテイストを出さない。けっこう変幻自在で、TPO に合わせてデザインにしてくるね。でも大切にするものをちゃんと持ってて、めっちゃ仕事キッチリで、必ず合格点以上取ってくる。すごく魅力的なデザイナーだね。

手が広いし、何でもできる。

ニガテなカテゴリとか無いのかなっていうぐらい。女の子っぽいデザインも得意だし。昔からそうだけど、すごく芸が細かくて職人芸みたいなのを良く見せてくれるし、センスの塊。一緒にやってて次々アイデアを出してくれるから、これからも一緒に仕事したいなあって思わせてくれる人だね。

今回の展覧会ではすごく自分のテイストを出してきてるけど、仕事ではぜんぜん出さないんだ。

立花ハジメデザインに居たってのも、もちろんあるんだろうけど、たぶんmokuvaで一番アートな人だと思ってる。仕事は仕事だからってすごい割り切ってるけど、自分で作るものとかは自分の信条を絶対曲げない。飄々としているようで、すっごいコンセプト固めてる。展示が楽しみだよ。

mokuva と自分

では最後に。mokuvaって何だろう。

自分ではやっぱりすごく楽な感じがあるね。地で来てる感じなのに、良く関係を維持できてるなって。こんなこと言うと怒られるかもしれないけど、イベントとか無くても仲良くやっていければなーって思ったり。

でも、今回こういう形でやってみて信頼感は強まったな。今回の展示でも、進め方も含め、お互いのポリシーがでてるなって思う。全員を尊敬できるようになったし、そういう意味では良かった。

これからもずっと、友達ともちょっと違うような、この関係でいたいね。

2013年2月7日
左居穣の自宅にて